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ESG が抱えるジレンマ

ESG とは 、でも解説したとおり、ESG 経営をする場合、長期的に、安定した収益を上げていくことを目的とし、企業価値、株主価値を高めていくことで、株主、投資家にとり魅力的な投資先であることを実現するには、多少の犠牲が伴います。

これを、ESG のジレンマとして、詳しく、ESG の課題や経営者の苦悩をどのように解決していけばよいのかを示していきたいと思います。

ESG のジレンマ

四半期決算との戦い

主に上場企業である場合、または、上場を狙う企業の場合、1 年間の業績として決算報告をし株主総会を迎える基本に加え、1 年を四分割し、四半期ごとに業績を開示することが、通例となってきています。

株式会社の場合、経営と所有の分離の原則から、会社そのものは、株主の持ち物であり、その会社を運営させるために、代表取締役を始めとする取締役という「経営のプロ」に経営を委任し、収益をあげて、収益の分配を株主にしていくという構図があります。

企業を取り巻く環境の変化が大きくなった今のご時世において、1 年では遅く、四半期に一回は業績を開示し、委任されている経営陣は、売上、利益ともに、株主のために最大化していく必要があり、それも四半期ごとに開示する経営指標上でも、しっかりとその責務を果たしていく必要があります。

株主は、経営者(代表取締役を含む役員と呼ばれる取締役全員)を、指名したり、解任したりする権利を保有しているため、ある意味経営者は、背水の陣で、四半期決算の数字を最大化していくことが求められます。

ESG に舵取りをする場合、多少コスト(費用)がかかっても、長期的に安定した経営にシフトするために、直近の利益を圧迫することもあり得るため、四半期決算の数字を悪化させ、通年においても決算上の数字が悪化する可能性があります。

つまり、経営者が ESG にコミットする場合、こうした株主の要求との戦いが生じてしまい、経営者にはジレンマがつきまといます。直近の利益を優先すべきか、それとも長期的な利益を重んじるのか、解任される可能性を排除できないまま、経営の方向性を変化させる必要があるのです。

ESG では株主との対話が必要

例えば、とある ESG 上の課題を解決するために、1,000 億円のコストがかかる場合には、利益を、直接的に 1,000 億円圧迫するため、利益の分配である株式配当が少なくなる可能性があります。

株主にとり、株式の配当は極めて重要な投資上のリターンであり、1,000 億円の利益の圧迫や株式の配当が減ることは、株主の利益を圧縮することでもあり、多くの株主は、これらを嫌がります。

何の前触れもなく利益が 1,000 億円削られれば、株主からすれと、経営陣を解任しても良いくらい怒り心頭な状態にもなり得るので、それらを回避するためには、株主との対話が必要不可欠になります。

それらの対話の機会は、いくつか方法があります。

まずは、経営陣が ESG 経営にコミットしたときです。、基本的に法的に開示する必要がある大株主には、直接的、または仲介している金融機関を通じて間接的に、株主総会を待たずして、対話を持ちかけるのです。

それ以外の投資家に対しては、プレスリリースや株主総会などのタイミングで公表し、プレスリリースであれば、問い合わせをしやすくし、対話を促す丁寧な対応も必要ですし、株主総会でも賛同を得るための工夫が必要です。

既存の大株主に対する直接・間接的対話、プレスリリース、株主総会が、いくつかの方法の選択肢になります。

また、いずれの場合においても、ESG 経営にコミットする際に検討していること、想定しえいることも、メリットとデメリットを両軸で、丁寧に説明する必要があります。

原則的な、ESG 経営のメリットとは、長期的な企業価値、株主価値の向上にあり、たとえ、1,000 億円を ESG 経営のために計上したとしても、長期的には、それを上回っていくことが、メリットの一つともいえ、ESG 経営によるサスティナビリティの実現で、将来、長期に渡りリターンを株主が得られることとなります。

フォーカスすべき株主

株主には、大きく二つの種類があります。

一つは、短期的な利益を求めて高いリターンを回収していくパターン。

もう一つは、長期的に株式を保有して、長期的な利益配当を得ていくパターン。

それ以外には、株価を見て売買する株主や株主優待を期待する個人投資家などいますが、大きく分けるのであれば上記の二つになります。

ESG 経営をする場合、利益を受けるのは当然後者の長期的な利益配当を得ていくパターンです。

当然、後者のような株主にフォーカスを当てて、ESG 経営にシフトしていくことになるのですが、では、前者のような短期的な利益求めてくる株主をどのように対応していけばよいのでしょうか。

株主のパラダイムシフトを起こす

短期的な利益を求めて高いリターンを回収していくパターンの株主にとり、ESG 経営は無用の長物かもしれません。

しかし、これらの短期的な利益を求める株主を無視して良いのかといえば、そうでもないのが実情です。

そこで求められるのは、短期の利益を追求することから、長期的な株式運用のメリットをしっかりと伝え、その考え方を変化させていくことが、経営陣に求められる ESG 経営上の責務でもあります。

そして、万が一、短期の利益を求める株主を引き止めることに失敗したときに備え、個人投資家などへのコミュニケーションを重要視し、ESG 経営のメリットを情報発信して、個人投資家などで補完していくことも経営陣に求められる手腕の発揮になります。

つまり、株主の考え方を変える点で、株主のパラダイムシフトを誘発し、短期的な利益を求める株主を説得して、長期保有のメリットを十分に理解してもらうことで株主でい続けてもらうこと、そして、潜在的な株主候補である個人投資家や代替する大株主になり得る機関投資家まで幅広く情報伝達を通じて、新たな株主を取り込むことが、パラダイムシフトの中身となります。

備えあれば憂いなし

ESG 経営にシフトする場合には、短期的な利益求める株主との間でコンフリクトが生じます。

いくら短期的な利益を求めるからといっても、短期的な売買目的で株式を保有しているわけでもない場合には、従来の当該株主の性格なども経営陣は把握しているので、ESG 経営に舵取りをする場合には、どのようなことが要求されたり、どのような反論が生じるかは、経験則で理解できていると思うので、それらの要求や反論に十分に対抗できるように入念に準備をして備えれば、その後の憂いも消えていくことでしょう。

このように、ジレンマが生じた場合でも、適切な対話やコミュニケーションを心がけることで、ジレンマを回避し、ESG 経営に専念できる環境を整えることで、ジレンマから開放されていくのです。