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ESG の事例から何を学びたいのか

ESG の事例は参考にならない

ESG の事例を知りたいのに、この見出しだけで、読む気もなくなるかもしれませんが、実際には、ESG 自体、個別の企業毎に異なるものであり、ESG に取り組む最先端企業の情報は多数あるものの参考にはなりません。

ESG の事例よりも、自社ベースで ESG を考える

ESG の事例を紹介しているサイトは数多くあると思います。

もし、事例だけを知りたいのであれば、それらのサイトか、本サイトで公開するものをご参照くださればと存じます。

まず、国外の事例の場合、法律も株式市場も、文化や投資家マインドまで異なるため、この記事を読んでいただいている日系の企業においては、参考にならないです。

例えば、日本ではヨーグルトなどで著名なダノンにしても、事業ポートフォリオを入れ替えて、ESG 更には、ESG や SDGs の概念の基礎的な問題を解決しようとしましたが、CEO であったエマニュエル・ファベール氏は、このことが原因で解任されています。その後も同社は同じ路線で、売上を拡大していますが、この事例を読んだ CEO が実践するとは到底思えません。

もちろん、会社の中で ESG を推進している事業部長や委員会が、取締役会でダノンの事例を用いて答申することは無理があります。

更には、国内においてもエーザイやキッコーマンなどが ESG、SDGs、サスティナビリティなどに積極的ではありますが、原則的には、各種国際基準の遵守と積極的な情報開示というレベルになっていて、これは事例を学ぶことなく、自社でも実行できることです。

他社のESG の事例を学ぶことはとても有意義に見えますが、ESG は、「自社の事業のど真ん中に ESG を組み込み」ことですので、他社のESG の事例を読み続けることで、自社の事業ドメインやポートフォリをを見誤る可能性を高めるだけですので、あまり、過度に ESG の事例ばかりを追っていても仕方がありません。

ESG の事例を社内に作る

ESG については、企業の非財務情報の開示であり、その方法などは、日本証券取引所のホームページや環境省のホームページなどで解説されていますので、それらを参考にしながら、自社がどのようにして、ESG を経営のど真ん中に持ってこれるかを検討するのが第一段階です。

検討して頭打ちの状態になった場合、コンサルタントなどに依頼をし、アドバイスを得ながら ESG の事例を社内に構築し、それを継続しながら、磨き続けていき、将来に渡り見直し続け市場に対応していくこと、つまりは、株主との対話を重んじていくことをおすすめいたします。

例えば、事業ドメインやポートフォリオの中の一部を ESG にシフトするなど、最初から全ポートフォリをを見直すことをせず、徐々に ESG にシフトしていく、そしてその判断が株式市場からも好評であれば、次の事業ドメイン・ポートフォリオを見直していくということでも問題はありません。

ESG の事例を社内に構築する方法(1)経営陣のコミット

では、ESG の事例を社内に構築するにはどのようにすればよいのかは、E の環境、S の社会、G の企業統治の三面から、事業を検討し、見直しができないかどうかを、可能な限りトップダウンで行うことです。

少なからず、ESG 経営を意識するということは、経営陣がコミットしていない限り、ESG ウォッシュとして、見透かされてしまいますので、その場合には、最悪のケースは、市場から見放され株価が下がり上場廃止になることです。

反対に、ESG にシフトしつつある株式市場において、ESG にはコミットしないとすれば、上記と同じ顛末を歩むことにもなります。

また、日本ならではの持ち株し合う典型的な組織体系でない限り、ESG にコミットするかしないか不明瞭であっても、顛末は一緒です。

恐らく、数年の間に ESG の金融市場からは、経営陣のコミットがない限り、投資機関から個人投資家まで見放されていくことでしょう。

まずは、経営陣のコミットをいかにして従業員であれば取りに行くのか、または経営陣であれば、どのようにして取締役会のコンセンサスを取りに行くのかが鍵となります。

いずれにしても既存株主からのプレッシャーもあると思いますので、いずれはと後手後手にまわるよりかは、「当社の ESG はこうです」と宣言してしまうことで、既存株主の理解を得つつ、新たな投資機関から個人投資家までの理解を得ていくことが必要です。

ESG の事例を社内に構築する方法(2)非財務情報をまとめる

原則的には、非財務情報の開示を通じて、ESG の金融市場に入り込んでいくので、開示するかしないかは別として、まずは社内において、非財務情報の集計を GRI スタンダードや SBT などの指標に合わせて算出していくことをおすすめします。

これらは、情報も多く出回っていることから、算出していくことはさほど難しいことではありません。専門的なことについてはコンサルタントなどを用いて確認していくと確実性が高まります。

もし、最初の段階で経営陣のコミットがない場合には、この非財務情報を集計してデータで見せて、経営陣のコミットを促すのも手だとは思います。

しかし、集計にはマンパワーもある程度必要なため、社内コストでどれだけまかなえるかどうかなど、検討せざるを得ない問題は多くあります。

ESG の事例であれば、私のクライアントでは、軽いコミットメントを取締役会の中で社内向けに取り、それで予算化をし、この第二フェーズを推進していく企業も多くあります。

その後、データが完全に揃い、且つ、それらを改善していける道筋まで描けると、経営陣の対外的なコミットメントを得やすいと思います。

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Photo by Andrea Piacquadio on Pexels.com

ESG の事例を社内に構築する方法(3)ストーリー

ESG の非財務情報の開示とは、原則的に国際機関のフォーマットに当てはめていくことで実現ができますが、それだけでは足りないというのが ESG の事例といっても過言ではありません。

なぜ、どうして、どのようにという 5W1H ではないですが、ESG の非財務情報の開示には、ストーリー性が重要です。それも投資家が喜ぶようなストーリーでなければなりません。

投資家も失敗はしたくないので、しっかりと、ESGのそれぞれの環境、社会、企業統治がしっかりとされ、顧客やサプライチェーン、バリューチェーン上の企業とその従業員や家族が豊かに暮らせるような、そんな ESG のストーリーは、投資家を魅了させる一つです。

もう一方で、ESG を推進するに当たり、仕入先の変更や使用する材料の変更など多くのコストがかかることもありますが、それらをマーケティング上で活かし、顧客の信頼を得て、売上が伸びていくというストーリーも大切です。一時的に業績が多少伸びづらいまたは伸びない時期があっても、それは将来、このように業績が伸びていくからであり、それらが結果的に投資家の利益を確保することにつながると伝えるのです。

ESG は、投資家との対話や協働作業というものを重んじます。

事例としても、ほぼすべての ESG 企業においては、投資家との対話や協働作業を行っています。

これらの対話のきっかけとしてストーリーを描いておき、それらが本気であり、事実将来そうなる可能性が高い旨を非財務情報の開示で行うのです。

ESG の事例を社内に構築する方法(4)過度な短期の利益を放棄する

ESG に取り組みながら、短期的な利益も追求できれば、ベストですが、株式市場にも変化が起きています。

それは、「過度に短期の利益を確保するために、ESG がないがしろにされていないか」という視点です。

そもそも論として、株式会社は、株主という投資家が、経営のプロである取締役に対して経営を委任し、利益の最大化を図る目的として設立されているものです。

ところが、世界で何十万という会社が乱立してそれぞれの利益を追求するがあまり、環境や社会に悪影響を及ぼし、それらを監督するはずの企業統治が疎かになり、結果、短期の利益の追求をして、果実を取りきった後、市場から撤退していき、長期的な利益につながらないというのが、問題になったのです。

長期的に利益を出し続けていくためには、サスティナブルな社会でなければなりません。サスティナブルであるためには、人間という経済活動の主体がサスティナブルでなければならず、環境や社会といった問題を解決していき、末永いお付き合いを顧客としていくことを重んじるようになってきたのです。

ESG の事例ではないですが、日本国内において、何かしらのモノやサービスを売りたい場合、日本人がお金を持っていないと商品は売れません。シングルペアレントに見られる相対的貧困を放置していては、モノやサービスを売りたいに、顧客のお金がないなら、売りようがないのです。

ところが、政治に任せていても一向にその問題に対して改善がなされない状態であることは日本に限らず世界に往々にしてあるので、株主も、株主の利益となる株式配当を少し我慢し、従業員の給料を上げていきながら、モノやサービスが売れ続けることを求め始めているのです。

そして、その作業は経営陣のみに任せていると、利益の追求に走りやすいので、経営陣と株主の間の対話や協働作業が必要になってきたというわけです。

今までは経営を全部委任していたところに、モノを言う株主ではなく、寛容な株主が増えてきているということです。

ESG の事例的なところでは、短期的に過度な利益を追求するがあまり、ゲーム会社などがアイテム課金を、ユーザーの所得の限界値までしてしまえば、その他消費に回るはずのお金がなくなり、経済全体が潤うことはありません。

そして、多くのゲームのユーザーは、過度に課金をしてしまう罠に陥っていて、20 万円の手取りのうち、家で家計に何もせずに 20 万円を携帯電話会社に支払い、それらがゲーム会社の利益となり、アパレル業界にしろ、飲食業界にしろ、こうしたユーザー層の来店がなくなり、経済全体がシュリンクしているというのが、今の日本の世の中ではないでしょうか。

こうした短期の利益の追求に走るのは、ESG 投資がロングタームであるのに対し、短期の利益の確保を狙う株主たちのそれこそゲームに従わざるを得ない経営陣がいるからです。

こうして考えると、事例などを用いならなくても、何故 ESG が必要なのかが理解できてくると思います。

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Photo by fauxels on Pexels.com

ESG の事例を社内に構築する方法(5)本当の株主を知る

本当の株主とは、市場を過度に荒らされることを嫌うロングタームの投資をしてくれる投資家たちです。

ESG の事例として、四半期決算の発表をやめた企業もあるくらいです。

そしてこれらの ESG 経営を行う企業の株主である機関投資家も、アセットオーナーをよくよく考えれば、年金というものも多く、しいては、国民のお金ともいえ、本来であれば、国民そのもののために ESG があるといえるのです。

ここまで来ると、EU 全体が ESG にシフトしていること、そして日本という超少子高齢化社会において、ESG 経営が極めて重要であり求められていることが理解でき、ESG にコメットするよいきっかけだと思います。

このように国民のお金の運用も含まれるとなると、生活に直結することですので、株主でなくとも、ESG にコミットしていない企業の商品を買わないことや使われていない製品を選ぶことなど、金融市場のみならず、一般市場からも見放されていく未来が、もうそこまできているのです。

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Photo by Todd Trapani on Pexels.com

ESG の事例を社内に構築する方法(6)CSV を定義する

CSV とは、「Creating Shared Value(共通価値の創造)」のことです。

マイケル・ポーター教授というと競争戦略論などで著名な教授が提唱したことで有名です。

それでは、共通価値の創造とは、どのようなことなのでしょうか。

CSV とは、企業が社会に起きている課題を解決していくことで、社会の課題を解決して企業と市民との共通の価値(課題が解決された状態は新しい価値がある)を創造することが、経済的にも価値を創造するというものです。

例えば、SDGs の貧困を解決していくことで、新しい経済が生まれ、新しい取引が生まれます。貧困という課題を、経済という仕組みを埋め込み、急成長を促すことで、新しい市場を生んでいくなどはわかりやすい例なのではないでしょうか。

それ以外にも、身近な問題や課題を解決していくことは、共通の価値を創造します。

病気になる人がいるからこそ、お医者さんがいる。病気になりたくないからこそ、未病や予防のビジネスが生まれる。健康だからできるビジネスが生まれる。

食品・飲料メーカーであれば、どの分野に注力すべきでしょうか。

トクホや機能性食品は、未病、予防の分野でのビジネスです。課題は、病気になりたくない、健康でありたいという課題に対して、既存のお茶飲料やそれ以外の商品に付加価値を加えて、ビジネスを生んだといえます。

このような社会の課題は、時代により異なります。長寿社会になり、外食文化が盛んになり、その結果としてメタボや生活習慣病の問題が生まれ、そのタイミングにあわせて、商品を投入することができるかどうかが問題であり、その未来を予測する力も、磨いておくべき感覚だと考えます。

その結果、また健康な人を増やすことで、運動をする日常を与えることで、今度はダイエットに効くトクホや機能性食品を投入していくことで、いきいきとした健康寿命を伸ばしていくことが共通の価値になります。

そして、食品メーカーであれば、健康は人を増やすことで、一人の顧客における食品の売れる時間が伸びていきますし、飲料メーカーであれば、一般的に健康によいとされているナチュラルミネラルウォーターを販売し、障害に渡り、自社の飲料を買ってもらえるということです。

ライフタイムバリュー(LTV)と呼ばれる考え方で、ジャンクフードで人稼ぎするのではなく、健康に長生きしてもらうことで、長期に渡り、顧客でい続けていただくという努力が、顧客と企業との間の CSV を生み続けていくのです。

少しでも違う業界に目を向けるだけで、事例を数多く触れることができます。

ESG に事例を学びたい場合には、スーパーやコンビニの新商品チェックをし、CSV や LTV を見出し、ESG のストーリーを探り、ESG のストーリーを描きやすい脳を構築することも、重要だと考えます。

ESG の事例を社内に構築する方法(7)パーパス経営

パーパス経営とは、ミッション経営との対比で用いられる新しい経営手法です。

ミッション経営とは、株主から与えられたミッションである「利益の最大化」を軸に、そもそものミッションとして創業者が時代として与えられたミッションを達成するために掲げる「企業理念」のようなものになります。

パーパス(Purpose)とは、英語で調べてみると以下の通りになります。

目的、意図、(ものの使用の)用途、(目的達成への)決心、決意、効果、適切

Weblio 辞書

つまり、ミッションとして与えられたのではなく、目的を持ち、それに対して決心を持ち退治していくのがパーパスとなります。

では、株主から与えられたミッションである「利益の最大化」に変化が起き、ESG に主軸をおいた長期的な安定収益源の確保を求める姿勢に変わった変遷を考慮すると、現状の課題のみならず、長期に渡り解決していかなければならない大きな課題に対する目的を持ち、それに対するコミットメント(決意)を示していく点で、パーパス経営と ESG 経営は類似することになります。

例えば、日本においても高度成長期に追いつき追い越せの時代、3Cとして、カー、クーラー、カラーテレビを購入することが、ある意味ミッションであったといえ、その背景には、戦後の焼け野原からの経済回復という日本国全体のおけるミッションが合ったと思うのです。

しかし、モノが潤う時代に、ミッションそのものがなくなってきています。

それよりも、「こういう社会を目指したい」、「こういう未来のために存在していたい」というパーパスに共感を生み、顧客とのエンゲージメントのみならず、従業員やステークホルダー、株主に至るまでのエンゲージメントを勝ち取っていくことが重要となります。

この目指したい社会はミッションではありません。あくまでもパーパスであり、パーパス経営をする企業が増えたときに、それらのパーパスの集まり自然的に出来上がる社会が、私たちの行く着く未来になります。

その土台となるのが、CSV であり、LTV であり、ロングタームを目指す株主の意図であり、それらの株主のアセットオーナーの国民・市民の希望でもあるのです。

そのためには、ストーリーが重要であり、ストーリーを構成する土台となるのが、ESG で開示する非財務情報となるのです。

まとめ:ESG の事例をつくるのはあなただ

ESG の事例が必要がない旨は、これからの持続可能な社会を中心とした未来づくりが始まったばかりであり、これから、事例を作るためにご紹介した 7 段階のプロセスを、ぐるぐるまわすことで事例となり、蓄積されていくデータになるのです。

独自のデータを用いて、更に個別の企業が ESG 経営を通じて、株主、投資家、顧客、ステークホルダーなどとの関係性を良好にしていくことで、ESG の輪が広まり、世界的に ESG 経営で良かったとなった時点で、「事例」となるのです。

パーパス経営の項目で解説した、ミッションを与えられ、ミッションを掲げ、日本の経済成長を下支えしてきたパナソニックの松下幸之助氏、ホンダの本田宗一郎氏など、日本の多くの創業者たちは、 ミッションを多く達成してきました。

これらのミッション経営については、もう既に実績がありますので、「事例」として、数々の研究が生まれ、これらの経営者に関する本は常に書店に並ぶ人気シリーズです。

この ESG 経営が、将来において大成功を収めましたという時代が訪れるた際に事例になれるよう、この記事をお読みになられた方は、この記事で解説した 7 つの手順を、循環させて、新しい時代、新しい資本主義の時代の ESG 経営を推進してみてください。